伊藤忠エネクス株式会社

サステナビリティ対談

現在、当社グループでは「エネクスグループのサステナビリティとは何か?」をグループ全員で考え抜き、自らに問いかけながら、長期的なビジョンを検討しています。その一環として、サステナビリティに精通したSDGパートナーズ有限会社の代表取締役CEO・田瀬和夫氏をお迎えし、当社代表取締役社長の岡田賢二と「持続可能な社会」について語り合いました。

人類社会が生み出したものと失ったものとは

岡田:今日は田瀬さんとお話しできるのを楽しみにしていました。様々な企業のサステナビリティ強化に取り組んできた経験をお持ち ですね。SDGs(Sustainable Development Goals :持続可能な開発目標)の目標は普遍的なものですから、その原点や背景にある我々人類のサステナビリティとは何かを考え抜くことが重要であり、考え抜くことでエネクスグループの企業活動のあらゆる面がサステナビリティと融合し、SDGsへの取り組みも加速していくものと私は捉えています。そして、考え抜くためには、インターネットや本などの情報のみではなく、リアルな議論や対話が必要です。コロナ禍により物理的にリアルな対話は減りましたが、世界各地とつながるオンライン対話が増加した現在の環境は、次の時代に私たちエネクスグループのあるべき姿を問う良い機会であるともいえます。今回の対談でも、田瀬さんと私の考え方の軸が重なる部分と異なる部分を探り、サステナビリティとは何かを突き詰めていきたいと思います。 

田瀬2017年に設立したSDGパートナーズでは、「会社の存在自体で社会的な価値を創り出すこと」を目指しています。社名にSDGsを冠したのも、SDGsが単に2030年の世界の目標を描いただけではなく、地球と人間の永い営みの中で、幸せとは何か、よく生きるとはどういうことか(Well-being)を問いかけていると捉えているからです。 

岡田:サステナビリティとは何かを考えたとき、果たして科学は人間を幸せにしたのか?と疑問を持ちました。世界人口が200年余りで約70億人増加したことは、科学の力で食糧事情が飛躍的に向上したからといえますが、この数百年の歴史を大胆に割愛してしまうと、現在の世界には貧しい人々があふれ返っています。その理由の一つには、労働に見合った適正な対価が支払われていないという問題があります。世界規模で労働成果を衡平に分け合う仕組みが確立されていない中で、人口が増え続け、ごくわずかなところに大半の資本が偏ってしまうという、いびつな構造になっているのです。

田瀬:確かにそうです。実際に調査したことがありますが、例えば数万円で販売される製品は、工場主やブランド企業を経て、製造した本人に回るのはわずかな金額でした。ブランド・バリューを加味したとしても、その価値を生み出す商品をつくった人への対価という点では、その価値相当のお金をもらっていない人たちがたくさんいるのが現実です。いろいろな科学者や研究者によれば、ここまで知能がある“種”というのは、これまで地球上にいたことがないようですが、その初めての“種”である私たちが地球全体の“種”の半分ぐらいを絶滅させようとしている現実に対面し、私たち自身の成長も、何十万年も続く話では決してないという危機感を持つ必要があると思っています。

SDGsの本質的な意味。何のために推進するのか

岡田:SDGsを考えていくと、経済の発展と人間の幸福度を指標化して、この両輪を見える化することができれば、世界はもっと違ったバランスで、格差を制御できたかもしれません。

田瀬そういう意味では、SDGsの中にも書いてあるWell-being やフリーダムといった目標は、国際社会が共通して追求してきたものであると思います。そして、欧米のWell-beingとは「社会に対してどのくらい自分が使命を果たせるか」ということが中心にあるのに対し、最近は日本の中でも変化がみられ、社会とのつながりが大切だという風潮が広がってきています。これから「安心・安全・快適」から一歩踏み出した幸せやWell-beingについて、企業が考えそして目指していけるといいなと思っています。

岡田田瀬さんは欧米の動向にも詳しいので伺いたいのですが、SDGsなどサステナビリティのルールメイキングでは、欧州などがイニシアチブを握っているようにも感じます。日本は絶対的な指標のようなものを自分たちで持つことが必要ではないか、極端にいえば、日本はもっと自己完結であっていいのではないかと思っています。現在、巷にあふれる情報は、グローバル・スタンダードの大号令で、企業経営はこうあるべきであるというステレオタイプにもなっていると感じますが、経営者として価値の軸は自分で決めるべきというのが私の考えです。

田瀬一番大事なことは、大事な人たちを救わなきゃいけないというミッションや人情から生まれてくると考えています。そういうところは共通して人を引きつけるものではないでしょうか。圧倒的にその部分で日本が強ければ、グローバルでも勝っていけると思います。岡田さんが自分で考えて決めるとおっしゃっていることは、私も同感です。コロナ禍になって私がずっと言い続けているのは、自分で考えて決めることが一番重要だということです。

一つの側面だけでなく、複眼的に読み取る力

岡田ダイバーシティの重要性も強調されていますが、私にとっては特別なことではなく、日頃から自分とは違う人や考え方に興味を持って向き合うことを心がけており、そこからの発見が、私の現在の考え方を形づくっています。

田瀬岡田さんは偏見がほとんどない方だと思います。おっしゃるように、同じ人たちだけでいるよりは、いろいろな人が入ってきて今まで聞いたことがないような話を聞くことのほうがおもしろいかもしれません。

岡田田瀬さんのお話を伺って、歴史的な大きな流れの中からSDGsが出てきているということを理解すべきだと実感しました。 当社グループがこれまで取り組んできたことは、従業員、取引先を はじめとしたステークホルダーの幸せ、役に立つことを土台に考えたものであり、それによって成長してきた会社であると自負しており、その取り組みは、SDGsにつながっていると捉えています。

ただし、現在の当社の経営戦略やビジョンからは、これらの取り組みが サステナビリティ、SDGsにつながっていることを明確に理解できないかもしれません。今後は、私たち自身が様々な事象を複眼的にみて行動していくことで、企業活動のあらゆる面をサステナビリティと融合させていくとともに、私たちの取り組みが理解しやすいように、活動を充実させていきます。

田瀬今回の新型コロナウイルス感染症によって、私たちは一度立ち止まって考える時間ができました。あらためて考えて自分でやってみるのは非常に重要なことだと思います。SDGsにしても自分の価値観からみるとどうなのかといったことをもう一度考え直し、そこから始めてみるとよいのではないでしょうか。

岡田そうですね。私たちにとって何が重要なのかしっかりと議論していきたいと思います。ビジョン策定も含めて、結局、企業活動とは、すべての従業員も含めた有機体である企業がどれだけ挑戦したか、経験したか、対話したかの総量で次が決まってくると考えています。 本日はありがとうございました。

田瀬和夫氏プロフィール

東京大学工学部原子力工学科卒、ニューヨーク大学法学院客員研究員を務める。1992~2005年 外務省に在籍。2005~2014年 国連に在籍。国連事務局・人間の安全保障ユニット課長、国連広報センター長を歴任。2014年 デロイトトーマツコンサルティング合同会社 執行役員に就任。2017年 SDGパートナーズ有限会社設立。