伊藤忠エネクス株式会社

ダイバーシティ対談②

当社では、障がいの有無に関係なく、あらゆる人がそれぞれの能力に応じて社会参加できる、共生社会の実現に向けた取り組みを進めています。
障がいのある方々の就労機会の拡大・多様な雇用創出を実現するとともに、障がいのある人が力を存分に発揮し、やりがいを持って働ける環境づくりを推進するにはどうしていくべきか。株式会社スタートラインの取締役 長谷川新里氏をお迎えし、当社社外取締役 山根基世氏と「多様な人材の活躍」をテーマに語り合いました。

働くことによって生まれる責任、経済的自立の大切さ

山根:「IBUKI TODA FARM2」で働く当社の7名の社員は、一般就労という就労形態をとっています。福祉的就労と一般就労の大きな違いは何でしょうか。

長谷川:「仕事に対する責任が生まれること」、「税金を使う側から納める側に変わり、納税者になること」、「親の安心感」、この3つの観点で大きく違うと思います。「作業」ではなく、「仕事」をすることで責任感が芽生え、自尊心も生まれます。何より、福祉的就労によって得られる1ヶ月の工賃がおよそ15,000円であることに対し、一般就労で給与が得られるようになれば、それは本人の自立にもつながっていくと思います。

山根:大きな違いですね。仕事があって、経済的に自立できることで「自尊心」を持てるというのが大切なポイントだと思います。誰もが「人としての誇り」を持って生きていける社会を目指すとき、障がい者にそうした仕事の場を提供するのは、企業にとって社会的責任と言えるでしょうね。 

大切なのは、理解し合うためのコミュニケーション

山根:障がい者の法定雇用率引き上げなどにより、各企業は障がい者雇用に前向きに取り組んでいると思うのですが、それはあくまで法律を遵守するためという一面もあるように思います。義務として障がい者を採用している企業も少なくないのではないでしょうか。

長谷川:それは確かに否定できません。障がい者雇用は企業にとって負担にならないといったら嘘になります。実際に採用してみて、トラブルが発生し『これは大変だ』ということになり、新たな採用に消極的になるということもあるでしょう。しかし、困った事があれば、相手ときちんと話をすればいいんです。時間はかかるかもしれませんが、相手をもっと知る、理解するためのコミュニケーションが大切だと感じています。

山根:お互いを理解し合うためにコミュニケーションが大切だということは、障がいの有無に関係ないことですものね。インクルーシブ教育、障がい者と健常者が一緒に教育を受ける場を設ける必要性を改めて感じます。

長谷川例えば、車いすの方だと足の障がいだけだと思いがちですが、精神的な障がいを併発しているケースもあり、メンタル面も考慮する必要があります。車いすの方は皆、同じ対応で良いというわけではありません。見た目だけでは分からないこと、皆、同じ対応ではいけないということはどんな人にも言えることなので、まずは相手を知ることがとても大切です。

山根今、企業の中で障がい者に接する機会はほとんどありません。見知らぬ相手には差別や偏見を持ちやすくなります。私も経験がありますが、義手でお箸を使ってお弁当を食べている人を初めて見かけたとき、緊張して声をかけられませんでした。でも見慣れてくると「その義手良くできていますね、どういう仕組みなの?」とか「義手ではできなくて困ることってどんなこと?」などと、率直に聞けるようになるんですね。すると相手も屈託なく「こうしてほしい、ああしてほしい」と本音で話してくれるようになる。見慣れることが大事。そして意識して触れあい、理解しようと努める。これは障がい者だけでなく、ちょっと理解しにくく思える相手にも通じることで、こうしたコミュニケーションへの努力が、多様性を受け入れることにつながっていくのでしょうね。

一人ひとりの違いを認めることで誰もが生きやすくなる

山根実は、障がいのある社員たちを違う職場で就労させていることに対して、なんとなく後ろめたさがあります。本来なら、同じ社屋で誰もが一緒に仕事ができるような環境をつくっていくべきだろうと思うのです。

長谷川それもいいが、それ以外があってもいいと思います。というのは、不特定多数と同じ場所にいることは、障がいのある当事者にとって負担になることがあります。限られた人数で、常に同じスタッフがいて、いつでも相談できる、そんな環境だからこそ安心できるという人もいます。皆と一緒に仕事をしたい人、離れたところで仕事をしたい人、それぞれに適した環境を自社内で用意するのは容易ではないと思います。ならば、私たちのような外部パートナーと連携し、選択肢をつくっていけばいいのではないでしょうか。

山根プロフェッショナルな知識・技術をお持ちの長谷川さんたちのお力を借りることが、障がいを持つ社員にとっても、心の安定を保てて幸せなのだと思えてきました。ただ、一体感を持つためにも、時には本社に来てもらって私たちと触れあう機会を増やしていきたいですね。義務や温情で障がい者を雇用するのではありません。誰もが幸せに生きられる社会の実現をめざす当社にとって、障がいを持つ仲間が生き生きと仕事をする姿は、ダイバーシティの象徴として誇りに思えるものです。

長谷川新里氏プロフィール

カナダ留学後、外資系メディアに入社。放送関連の広告営業を経た後、人材サービス会社に転職。経営企画、新規事業推進マネージャー、広報IR特命担当シニアオフィサーなどを歴任した後、障がい者の雇用促進のための特例子会社設立プロジェクトを担当し、役員に就任。2009年、株式会社スタートライン設立に参画し取締役を務める。